女性起業家を応援するヒューマンネットワーク新聞マガジン「わんからっとL」

わんからっとL 57号

2010/05

創業90周年スペシャルインタビュー「躍進し続ける老舗企業の挑戦!お茶の井ヶ田」

商店街の発展とともに

―今野社長は三代目になられるとのことですが、初めに創業の歴史からお聞かせください。

克二─創業は大正9年です。創業者である井ヶ田周治はお茶の産地で有名な埼玉県の狭山出身で、埼玉のお茶屋さんで修業した後、秋田に出店を出し、その後独立して仙台に店を開きました。
 仙台の初売りの伝統を知らなかったため、最初の初売りの時は商店街の皆さんにいろいろ教えて頂きながら、慌てて景品を準備したと聞いています。

―井ヶ田のお茶箱は、仙台初売りの名物として今や市民にもすっかりお馴染みですね。

克二─お茶箱を付けたのは昭和10年からです。当時、静岡や狭山からお茶を運ぶのにお茶箱を使っていたのですが、防虫・防湿効果があるため空き箱が衣類収納用に重宝され、初売りの景品にしたところとても喜ばれたようです。
 木箱の内側にトタンを貼り付けるお茶箱は、特殊な技術が要るため誰にでも作れるものではありません。今はお茶箱作りの技術も職人さんの高齢化のため伝承が難しくなっておりますが、昔の人が工夫して作り上げた良い物がこのまま消えてしまうのは惜しいですし、できる限り残していきたいですね。現在は5kgから40kgまで4種類の大きさの茶箱を販売していますが、もっと小ぶりでデザイン性のある物も出してみようかと企画しています。



食べるお茶で新風を起こす

―仙台の街にしっかりと根付きながら、その後は順調に成長していかれたのですか。

克二─高度成長期には右肩上がりに売上を伸ばし、卸先も二千軒を超えるほどでしたが、私が入社した昭和50年代には成長にかげりが見え始めていました。小売の主流がそれまであまり取引のなかったスーパーマーケットに移ったことや、自動販売機が普及した影響が大きかったですね。
 日本の食文化が変化していく中、お茶屋として新しい商売の切り口が必要ではないかと考えるようになり、そこから「食べるお茶」というコンセプトが生まれたわけですが、そのきっかけとなったのが平成5年から始まった抹茶のソフトクリームの販売でした。

●順子─お茶屋にとって夏場というのは、麦茶など単価が低いものしか売れず、例年売上が低迷する時期でもあります。そんな夏にも店に賑わいを作れたら、と思ったのです。

克二─抹茶のソフトクリームであればお茶に関係があるし、と思いながらも、「お茶屋がソフトクリームなんかやっていいのだろうか」という不安もあり、迷いながら先代の徳治社長に進言したところ、「店の中ではなく、前でやりなさい」と言われたんです。

●順子─発売は5月の連休前で、しかも一番町はアーケードの工事中でした。おっかなびっくり始めたところ初日から行列ができ、口コミで評判が広がって思いがけない大ヒットとなりました。

克二─今になってみると、外でやったからこそ成功につながったんですね。会長のあの一言が後の喜久水庵の展開へとつながっていったのだと思います。

―喜久水庵で販売している「どら茶ん」「喜久福」は、今や大ヒット商品となりましたね。

●順子─ありがたいことにタレントさんがテレビで紹介してくださるなど、口コミで広がる機会に恵まれました。急激なブームというのは怖いですが、口コミで徐々に広がっていくのはとてもありがたいことです。

―新商品のバウムクーヘンもやはりお茶にこだわっているのですね。

●順子─バウムクーヘン「MARTAGE(マルタージュ)」は「年輪に感謝の心を込めて」という意味の造語で、プレーン・抹茶・黒糖の3種類を発売しています。非常にしっとりソフトなのが特徴で、パッケージには仙台の四季のお祭りのデザインを取り入れました。
 いろいろな種類のお菓子を出しても、当店で人気があるのはやはりお抹茶のお菓子です。数あるお菓子の中からうちの商品が選んで頂けるのは、やはり当社がお茶屋だからこそだと思いますし、飲食コーナーでも茶そばや茶うどんをメインにして他店との差別化を図っています。


伝統食の良さを次世代へ

―90周年を迎え、これからの展望をお聞かせください。

克二─私どもは創業以来、お茶という日本の農産物を扱ってきました。「喜久福」の原料にも宮城県産のもち米「みやこがね」を使用しています。これから会社としていかに社会貢献するかを考えた時、環境問題ももちろん大切ですが、農産物で商売させていただいている以上、日本の農業にプラスになるようなことをしたいと考えています。できる限り地場の食材を原料に使いながら地産地消を推進し、農産物の国内自給率を上げるための活動にも取り組んでいきたいですね。
 また、私は日本人の繊細な味覚というのは、砂糖を入れずにうま味を楽しむ日本茶の文化が影響しているのではないかと思っています。今、日本の食は洋風化が進み、お茶やお米や味噌などの消費量も減っています。だしや発酵食品というのは世界に誇れる文化ですし、廃れさせてはいけない優れた伝統だと思います。お茶については喜久水庵を立ち上げたことで一つの形が見えてきましたので、今後はだしや発酵食品などの伝統食を守るための活動にも取り組んでいきたいと思います。

●順子─今の子供は急須できちんと入れたお茶を飲む機会が少なく、お茶というのは喉の渇きを潤すためのものにすぎません。子供の頃から繊細なお茶のうま味を楽しむことで味覚も育ちますし、食育という観点からもぜひお茶の習慣を家庭で取り入れてほしいと思います。今後はそのための普及活動にも力を入れていきたいですね。

克二─最近の当店の店舗では、売り場の一番前のスペースに接茶台を設け、お客様へのおもてなしとしてお茶のサービスをしています。こうしたことも、家庭でお茶を飲む機会が減ってきたからこそ喜ばれている気がします。

●順子─近年は殺菌作用が注目されるなど、お茶はいろいろな意味でパワフルな飲み物です。切り口次第で可能性はまだまだ広がりますから、これからも様々な活用の仕方を開拓していきたいですね。