女性起業家を応援するヒューマンネットワーク新聞マガジン「わんからっとL」

わんからっとL 56号

2010/02

「鯛きち」「蛸きち」

シリーズ<夫婦で起業>「互いの信頼で困難を乗り越え、新展開へと挑戦」

周囲の応援を受けながら事業拡大


―会社を設立された経緯をお聞かせください。

●文夫─私は菓子製造業を営む家の次男に生まれ、学校卒業後はお菓子と食品の問屋で営業をしていたのですが、昭和51年、31歳の時に独立しました。当初は飲食業をやってみようと漠然と考えていたのですが、私をいつも応援してくださっていた名取市農協の営農部長だった方から「今まで通り問屋をやるべきだ」と助言を受け、それもそうだと思い直し、大河原で菓子の卸売業を始めました。



―独立にあたり、奥様の克子さんは生活に不安もあったのではないでしょうか。

●克子─独立した当時は結婚3年目で2歳と1歳の子供もいたのですが、まったく心配はしていませんでした。結婚する時に主人から「将来は独立したい」と言われていましたし、この人はずっとサラリーマンでいる人ではないと思っていましたから覚悟はできていました。それに、男性は一旦こうと決めると止まるものではありませんしね。



―事業は順調に軌道に乗られたのですか。

●文夫─昭和53年の宮城県沖地震の被害で倉庫が使えなくなり、それを機に会社を移転したのですが、倉庫が大きくなったことで仕事が増え、売上も順調に伸びていきました。
 しかし、仕事量が増えるにつれて体力的にきつくなり、実は途中で何度もやめようと思ったんです。でも、いつもたくさんの人が応援してくれたおかげで自分がここまで来れたことを思うと、途中で投げ出すわけにはいきませんでした。お金がない私のために支払いを早めてくれたり、資金援助を申し出てくださる方もいたり、私はお客さんにもすごく恵まれていたんです。



新展開への挑戦

うす皮たい焼き「鯛きち」が大評判ですね。

●文夫─最初は10円饅頭の店を出すつもりで準備を進めていたのですが、ちょうどその年に糖尿病の診断を受け、まもなく緑内障を発症してしまいました。饅頭の販売には工場も店舗も必要になるなど課題がたくさんあり、病気を抱えてどうしようかと思っていたところ、知人からたい焼き屋を勧められました。
 関東の人気店を見学したり、皮はどんなタイプにしたらよいかと研究を重ね、19年10月にオープンしました。おかげ様でたくさんのお客様にご好評頂き、現在は姉妹店の「蛸きち」を含め5店舗を展開しています。

―事業の拡大を克子さんはどのような思いで支えてこられたのでしょうか。

●克子─振り返ってみると、私は主人がやろうとしたことについて一度も否定したことがないんです。もともとゼロからのスタートでしたから、やりたいことをやった上でゼロに戻ってもいいじゃないかと。やはり主人には悔いがない人生を送ってほしいし、それが黒子としての私の役割だと思っています。
 私は、夫婦というのは前車輪と後車輪だと思います。前と後が一緒に動いて初めて進むことができますし、力を合わせることで何倍もの力が出せる。そうした思いが基本にあったからこそ今日まで来られたような気がします。



「恩」と「感謝」を大切に

―娘さん3人も会社に入られたそうですね。

●克子─これまで私がやっていたことを娘たちと分担したことで、気持ちが楽になりました。真剣だからこそ親子でぶつかることもありますから、その時に間に入るのがちょっと大変ですね。

―これまで経営の上で大切にしてきたことを教えて下さい。

●文夫─やはり、「恩」だと思います。夫婦の間でもそうですし、お世話になった方からの恩は決して忘れないように心掛けてきました。

●克子─それに加えて、「感謝」ですね。会社を支えてくれるスタッフに対してはもちろん、数多いお店の中からうちを選んでくれたお客様にも感謝です。もちろん主人に対しても私のことをもらってくれてありがとうという気持ちです。

―起業を目指す若い方へ向けて、メッセージをお願いします。

●文夫─これは当社の社是でもあるのですが、「チャンスは努力によって生まれる」ということです。一昔前と違い、今は寝る間を惜しんで働いても結果的に報われないという人はたくさんいます。自分の考えをきちんと持った上で努力することで、運が開けていくのではないでしょうか。




   



チャンスは努力によって生まれる
 こんにちは。わんからっとLも早いもので、今年で14周年目を迎えました。「少しずつ進化してきているね」と言われるのが何よりうれしく思います。
 今回のトップ特集は、夫婦で手を取り合って創業し、平成22年には35期を迎える鰍「しぐろ様のご夫婦です。今、名掛丁商店街通りに、食べ歩きのおやつのお店がいくつもオープンしていますが、その中でも一際行列をつくっているお店が、平成19年にオープンした薄皮たい焼きの店「鯛きち」です。この爆発的にヒットした「鯛きち」を経営している会社が株式会社いしぐろ。本社を名取市から仙台市宮城野区扇町に移し、さらに菓子、飲料卸売業として東北6県に販売網を展開、現在従業員数が126名(パート・アルバイト含む)と成長している企業です。
 この「鯛きち」のヒットにつながったのには、単にたい焼き100周年ブームに乗ったとかいうことではなく、石黒様ご夫婦の二人三脚の『努力の結晶』が、運を開かせてきたように思います。社是には、「チャンスは努力によって生まれる」。お二人とも経営でもっとも大切にしている、してきたことは、「恩」「感謝」と口を揃えて仰っていました。努力を積み重ねていけば、自ずとチャンスはやってくるのだと。
編集長
 しかし、このチャンスという物の考え方こそが、経営者としての決断力を試される時はないのだと思うのです。見方を変えれば、ピンチとも思えたり、崖っぷちとも捉えることもあるわけですし……。そこのところを、「自分の考えをきちんと持った上で努力することで」と石黒社長は笑顔で話して下さいました。
 今では、3人の娘さんも会社に入って、それぞれに柱になっているそうです。
 私も薄皮たい焼き「鯛きち」を食べたくなって行列に並んで買っている一人です。頭からしっぽまで小豆が入って120円は安いなと思います。ホッと安らぐ瞬間。
 わんからっとLもそんな誌面にできたらと、これからもさらに努力を積み重ねて邁進していきたく思いますので、今後ともご支援ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。

わんからっとL編集長
小泉知加子